スキップしてメイン コンテンツに移動

問題提起というか

70歳台の男性.
発症3時間40分で来院したため,tPA静注療法の適応はありませんでした.


むかって左が来院時.右が1週間後.

tPA静注療法というのは,発症3時間以内の脳梗塞に投与できる点滴治療薬です.
患者さんの持っている病気とか状態によって,使っていい,使ったらだめ,の基準がいろいろありますが,その話はここでは割愛いたします.

一番大きな問題は,発症から3時間オーバーの患者さんには投与できないといういことです.今のところ.

近いうちに,4.5時間まで延びそうですが,日本でも(欧米では4.5時間になっています).その話もここでは割愛.

この患者さんの話.

3時間以内に当院に来院していたら間違いなく投与していたでしょう.脳卒中の医者がいうので間違いないです.

なぜ来院まで3時間40分かかったか.

それが問題です.

実は,当院に来院する前に,かかりつけの病院に搬送されています.

そこには脳卒中の専門医はいません.ましてや,時間は夜の当直時間帯.
その病院には,おそらく当直の先生が一人しかいません.検査の技師さんは,もしかしたら,自宅にいるのを呼び出しする形態かもしれません.
実際,当院に来たのは2時過ぎでした.

その病院で,丁寧に採血と,MRI検査がされていました.MRI検査は,20分から30分かかる検査です.その病院はtPA静注療法ができる病院ではありません.

とういことで,タイムオーバーです.

このケースの問題点は,2つ.

1. 救急隊が麻痺があるのがわかっていて,tPA静注療法をできないかかりつけの病院へ搬送した.
2. tPA静注療法ができない病院で無駄な時間を過ごした.

でも,しかし,もっとも大きな問題はその背後に隠れています.

脳卒中を診る専門医が少ない.

ということです.

脳卒中専門医が,救急隊への的確な指導を行っていれば,tPA静注療法ができる病院へ搬送できていたでしょう.

救急隊の皆さんの時間をお借りして,時々やってはいます.脳卒中の講義.でも,まだ足りないということです.

また脳卒中専門医がはばを聞かせていれば,その当直の先生も,「あっ,これは脳卒中専門医がいる病院にすぐ送らんばな」と考えるでしょう.

本当に,切実な問題です.脳卒中内科医を増やすことは.

ただ,自分ばかり責めても,ただのM男になってしまいます.

脳卒中専門医が少ない現在の状況で,効率よく,有効な治療を行えるようにするには,今回のケースを通して,問題提起すべきかもですね.それが長崎の脳卒中を良くする道の一つと思います.

救急隊も医師ではないにしろ,その道のエキスパートです.
常日頃,疾患を考え,どの病院に送るか仕分ける(”トリアージ”と言います)訓練をやっています.
この患者さんは,発症時,明らかに麻痺があったと記載がありましたので,やはり救急隊はtPA静注療法ができる病院に送らないといけない!!と思うべきだったと思います.

救急隊のほとんどの方は,そう思うと信じていますが,中には,「麻痺,脳卒中,急いで専門病院へ」と思えない人もいるということです.

その当直の先生も,厳しいかもしれませんが,トリアージをしっかりしなければなりません.
いみじくも頭部MRIを行っているということは脳卒中だと気づいていたということです.
医療の進歩のスピードはすさまじいです.ほかの領域の最先端のことにはついていけません.しかし,ついていけなくても,知っておかなくてはなりません.

ちなみにtPA静注療法はもうすでに認可されて7年たっていますので,最先端ではないとおもっているのですが・・・.

今回のことは,私が,胸痛患者をみて,心電図をとって,よくわからんから冠動脈CT検査を行って,閉塞血管を観察して,専門病院に送ることに近いことだと私は思います.

自戒の意味も込めて.

これが現実です.

ちなみに,この患者さんは,幸い現在介助歩行で,歩行訓練を行っています.失語症状があり,コミュニケーションが難しい部分がありますが,発症時よりは笑顔も増え,なんとなくコミュニケーションはとれるようになりました.


コメント

  1. 患者さんとその家族、救急隊、かかりつけ病院の間で簡単なようで、複雑なやり取りがあったのかなという感じもありますね。

    先生の救急隊向けの講義、参加させてもらって、漠然としてますが救急隊の役割って大きいなって思いました。
    救急隊の中にも先生の講義に参加して、使命感的なものを持ってくれた方も沢山いると思います。
    でもやっぱりプロとはいえみんなに浸透するまでには時間がかかるんですね。

    自分自身も患者さんからの電話を受けた時に、的確なトリアージができないといけないなって改めて思いました。
    一つでも多く患者さん、家族の笑顔が見たいから、私ができる事をまずやってみようと思います。
    ハードル低いですが、まずはアンダートリアージにならないよう気をつけます。

    返信削除
  2. 搬送に関しては患者さんと家族、救急隊、かかりつけ病院との間で、簡単なようで、複雑なやり取りがあったのかなとも感じます。

    救急隊向けの講義に参加した時、漠然とですが救急隊の判断ってすごく重要だなって思いました。
    先生の講義を聞いて、救急隊の中にも使命感?的なものを持ってくれた方は沢山いると思います。
    でもみんなに浸透するまでには、時間がかかるし、そこから行動に移してもらうのも難しいのが現実なんですね。

    自分自身も患者さんからの電話を受けた時、的確なトリアージができなきゃなって改めて思いました。
    患者さんと家族の笑顔が一つでも沢山見たいから、ハードル低いかもですが、まずは自分にできる事からやってみようと思います。
    くれぐれもアンダートリアージにならないよう気をつけます。

    返信削除
    返信
    1. 看護師の電話トリアージは大変ですね。

      私個人的には、自分が看護師ならば、やりたくない仕事の一つですね。

      ここにも病院としてのリスクが潜んでいますよね。

      コメントありがとうございます。
      私も自分ができることからやっていきます。
      ちなみに、次からは問題なく投稿できるはずです。

      削除
  3. 投稿できてないと思ってました。
    2個も入っているとは…恥ずかしいですね。
    長文をすみません。

    返信削除
    返信
    1. 気にせず.

      生きていれば恥ずかしいことばかりです.

      削除
  4. ちなみにtPAが4.5時間まで使えるようになるのはいつ頃か、ある程度わかってるんですか?

    返信削除
    返信
    1. 次のガイドライン改訂時です。2004年、2009年と改訂されているので、次は2014年、ってのはちょっと遅いかも。前倒しになるのでは。
      末端までは情報はきません。

      削除
  5. 去年の研究でかかりつけ医を経由しての当院。で、家族が希望したってケース多々あり。
    救急隊の判断で押し切ってもいいような。。。プロの判断なので。
    軽い症状で病院に電話相談したら、Nsから脳卒中ホットラインに自分で電話してと言われ(その時点で「え!?」ですけど。。)、結局救急車呼ぶのも気が引けたから自分でタクシー来院したってケースもあり。
    突っ込みどころ満載(-_-;)。

    tPAが認可されて7年経過。
    脳卒中専門病院以外の医療者も脳卒中治療に関心が無ければトリアージも役立たず。
    一般の方への啓蒙活動も水の泡ブクブク。o○。
    アンテナ伸ばしてもらって興味を持ってもらう事が大事ですね。
    でないと、いくら救急隊や脳卒中専門医が頑張っても治療効果が上がらんよね。
    どこからでも情報を共有でき、「これ脳卒中?なう」ってかんじで少ない脳卒中専門医に早く相談しやすいシステム環境を構築していくのが難しいのかなぁ。。。。
    こんなにメディアは発達してるのに。
    またまた長文失礼しやす。

    返信削除
    返信
    1. ホットラインの電話番号を一般の人に教える医療機関って年に2,3回あります.
      一般の人が電話していいものじゃないことは,考えればすぐにわかることですが.

      脳卒中専門医に早く相談しやすいシステム.

      鋭いです.

      この一言はいろいろな問題をはらんでいます.

      脳卒中専門医が少ないことはもちろん,システム構築の問題,そして病院運営の問題.

      システム構築の問題については,考えがあって,あじさいネットをつかって今後やっていこうと思っています.
      あじさいネットの急性期利用.
      少しずつ進行中.のはず.

      以前,上五島病院と全国研究の一環で,携帯電話を使ったtelemedicineを行いました.登録患者全国一位でした.ニーズがあるということです.上五島病院の先生方は,「ぜひこれを継続してほしい」とおっしゃっていました.

      こういう風に,急性期の患者を専門病院との間で共有することに大賛成の病院があることは間違いありません.

      そういう病院だけかどうかはわかりません.

      いずれにしろ,我々がやらなければならないことは多くあります.

      削除
  6. 問題山積みですね
    その他さまざまな病院の救急当直をする先生のやり方
    長崎市病院・救急体制を含めたシステム全体の問題もはらんでいるでしょう
    ただかかりつけ医といううのは非常に大事だと思います。本人・家族とその病院との信頼関係、地域医療などなど…

    現在、テレビ、ラジオ、ネットなど情報媒体ありますがどれだけ認知・普及するかは一つの病院やチームのみでは大変なものが、もっと行政なんかも絡んでこないとですかね…
    患者家族への啓蒙(どれだけ啓蒙してもしたりない)、救急隊の教育もしかかり、当直される脳卒中専門以外の先生方にも症状のみでとりあえずhot lineコールして相談してもらうとか
    まだまだ工夫は必要ですn

    返信削除
    返信
    1. 人を多く巻き込んで,それぞれが得意な分野で,脳卒中診療をやっていけるような雰囲気を作りたいです.

      私はオールラウンダーですので,とびぬけた能力を持つ人材が集まるようなチームを作っていきたいと思っています.

      それぞれの活動が渦巻きのように広がって,市民にもじわーっと認知されるようになることも一つの方法でしょう.

      また,幸い長崎は田舎なので,メディアとの接点は結構近いです.人脈ってやつです.有効利用したいですね.

      削除
  7. やっぱBB46氏めざせ総理。いや、県知事にならんばじゃ(笑)
    医療と政界は切ってもキレませんからねぇ。

    たてへいさんは差し当たり、総料理長。いやオーナーやろか。敏腕P?

    返信削除

コメントを投稿

このブログの人気の投稿

NIHSSスコアの基本を再確認。

※付録 NIHSSスコア NIHSSスコアを作ったLyden先生がNIHSSスコアについて書いています。 NIHSSスコアを評価すると、ときどき、 「これ、何点にすべきですか?」 なんて、看護師や、研修医から聞かれて、 「まぁ、1点と2点の間って感じかな?」 と、ぼかしたり、 「思うとおりに評価していいよ。それが、大切だ!」 と、妙に「お前を信頼しているぜ」感を醸し出したりして、 その場を切り抜けていました。 それも、間違いだとは思いませんが、「もっとスッキリしたい」とみんな思っていたのだと思います。 で、このもやもや感を少しでも解消できるかと思って、 Lyden et al. Stroke. 2017;48:513-519 Using the National Institutes of Health Stroke Scale を読んでみましたが、 基本、NIHSSスコアが作られた歴史 的な話ばかりで、 スッキリせず。 期待がずれていたのは、こっちの問題です。 それでも、2つ再確認出来たことがありました。 NIHSSスコアを評価するときのルール すべての項目で、Score what you see, not what you think (診たものを評価する。検者が考えたものではない) すべての項目で、Score the first response, not the best response, except item 9 best language (最初の反応を評価する。ベストの反応ではない。でも、言語の評価はベストの反応で) すべての項目で、Do not coach (コーチしちゃだめ) 項目1aで、May be assessed casually while taking history (会話している間に評価可能でしょう) 項目2で、Only assess horizontal gaze (水平方向の眼球運動のみ評価) 項目5 and 6で、Count out loud and use your fingers to show the patient your count (声を出して数字をカウントし、患者の前で指を折ってカウントすることもす

3度めの正直。日本神経学会専門医合格。

第40回神経専門医試験に合格しました。 合格をいただきました。 3度めの正直なのです。 第38回☓、第39回☓、で今回。 試験結果が出るまで、 「3度目の正直」:「2度あることは3度ある」=1:5 ぐらいの心境でした。 2回不合格だったことは、少しだけ恥ずかしいですが、仕方ありません。 それが、現実ですし、逆に、得られたことも大きかったです。 神経診察を基本からやり直すと、より深く、それぞれの診察の意味と、的確な総合的診断に結びつくことを理解することが出来ました。 疾患についても勉強しなおしました。 あたり前ののことですが、でもそのあたり前(基本)が重要なんですね。 多くの神経内科医は知っていることなのでしょうけど。 今回も試験当日は20分ずつ2部屋で面接試験がありました。1つ目の部屋では、診察の実技です。 面接官の先生はiPadを見ながら、どれを質問しようか考えていらっしゃいました。 おそらく、神経診察の到達目標みたいなのがあって、そのうちの1つか、2つを受験者にさせているのだと思います。 「右麻痺があって、複視がある人の診察をしてください。あっ、意識障害も有るということで」 横に座っている若いお兄ちゃんを診察させていただくことになります。 いつも(3回目なので)思うのは、この普通の人を、病気の人としてイメージしながら診察することの難しさです。 診察しても、麻痺の症状をしてくれるわけではありません。「ものが二重に見える」と訴えてくれるわけではありません。もちろん、意識清明です。 脳神経の2番から順に診察をしていくと、省くことができず、そのまま脳神経診察終了。 ベッドに寝かせて、運動の診察をして、チラッと試験管をみても、何もおっしゃらないので、そのまま感覚、協調運動の診察。チラっと試験管をみても、何もおっしゃらないので、そのまま腱反射、病的反射の診察。そこで、試験管から一言。 「あのー、意識障害もありましたよね」 「あっ。」 かるく、混乱して、最後まで意識障害の診察をせずに終わってしまいました。 やってしまった~と思いつつも、意識の診察を「わかりますか〜」なんて、質問したところで、 「ま、それはいいので」「意識障害があれば、髄膜刺激徴候も必ず診ますよね」

足モミモミポンプ.あれ,意味あるの?

足の静脈にできる血栓.深部静脈血栓症. これが,流れて肺の血管に詰まると, 肺塞栓症. 命にかかわる病気です. 救急で入院すると,看護師に聞かれます. 「フットポンプつけますか?」 また,その書類ももろもろあります. これがフットポンプです. これで静脈血栓を予防します. これって,意味あるんですか? 意味あります.手術後の患者さんに. これまで20以上のランダム化比較試験があり,手術後にフットポンプをつけることは,明らかに静脈血栓の発生率を減らします. じゃぁ,他の状態では? 例えば・・・, 脳卒中. 麻痺があったら,静脈血栓は出来やすいです.静脈の流れが悪くなるから. これまで,急性期脳卒中における,この足モミモミフットポンプの有効性を調べたの研究は2つぐらいしかなくて,しかも有効性を見出すことができませんでした. でも,やっぱり,フットポンプつけています. 良さそうだから. ということで,それを調べている今回の論文. CLOTS (Clots in Legs Or sTockings after Stroke) trial Lancet 2013 CLOTS Trial Collaboratrion. Effectiveness of intermittent pneumatic compression in reduction of risk of deep vein thrombosis in patients who have had a stroke (CLOTS 3): a multicentre randomised controlled trial 多施設ランダム化比較試験です. 対象患者: 急性期脳卒中 .トイレまで自分で歩いていけない人. インターネット登録すると,足モミモミフットポンプグループと,しないグループに分けられます. この2つのグループで Primary outcome: 30日以内の深部静脈血栓(大腿,膝窩静脈) Secondary outcome: 30日以内の死亡,深部静脈血栓(大腿,膝窩,下腿の静脈),肺塞栓,足モミモミフットポンプの合併症(傷,転倒) 結果 Primary outcome 足モミモ