スキップしてメイン コンテンツに移動

脳出血急性期の血圧管理.140mmHg未満?

脳出血急性期は血圧を下げましょう.

当たり前ですが,どこまで下げる?

実は,ガイドラインでは180mmHg未満.

結構高い・・・.

実際は,もっと下げています.

でも,どこまで下げるべきかわかっていません.

Andersen et al 2013 NEJM. Rapid Blood-Pressure Lowering in Patients with Acute Intracerebral Hemorrhage

今回の論文は,発症6時間以内の脳出血を,140mmHg未満に下げるグループと180mmHg未満に下げるグループに分けて,その効果を評価しましょう.

というものです.

2839人の発症6時間以内特発性脳内出血(脳血管奇形や腫瘍からの出血などを含まない)
来院時血圧が150-220mmHg.
Glasgow coma scale 3-5の人は含めない.

評価項目:

Primary outcome: 90日後のmRS 3-6

mRSについて:"0"は症状なし,"3"はなんとか歩けるけど,身の回りのことに手伝いが必要,"5"は寝たきり,"6"は死亡

Secondary outcome:mRSを順序変数にして比較する.生活の質を比較する

結果:

Primary outcome:

140mmHg未満:719/1382人 vs 180mmHg未満:785/1412人
odds ratio 0.87; 95% confidence interval, 0.75-1.01, p=0.06

140mmHg未満の方が死亡や機能予後不良を起こしにくい傾向はありましたが,有意差はありませんでした.

しかし,mRSを順序変数にすると140mmHg未満にした方が,機能予後はよい傾向でした(odds ratio 0.87; 95% confidence interval, 0.77-1.00, p=0.04)

そして,140mmHg未満グループの人たちの方が,生活の質(Quality of Life: QOL)が三カ月後によい(p=0.002)という結果でした.

24時間後の血腫増大は2つのグループで差がありませんでした.
(血腫増大率は180mmHg未満グループで1.4ml大きかった.p=0.180)


このように,140mmHg未満に血圧を下げるintensive treatmentの方が,90日後の状態が良い傾向にあります.

使った静注薬が日本と違います.

αブロッカー静注薬(Urapidilなど)を140mmHg未満群で32.5%の人に使われています.
カルシウムブロッカー静注薬は16.2%.

αブロッカーの静注薬があるんですね.


結局,Primary outcomeで有意差を出せなかったので,血腫の増大で差がないのに,なぜ140mmHg未満に下げた方が,90日後の状態が良い傾向なのか,QOLがよいのか,考えるのは難しいです.

現在,脳内出血発症4.5時間以内の血圧降下療法.ATACH2 trialが進行中です.
その結果にも注目したいと思います.


これからも血圧はしっかり下げていこうという考えは変わりません.

ときどき,他の病院に搬送されて,脳出血がわかって,当院に転送されるときに,血圧が高いまま搬送されてくることがあります.

こちらから,声かけして,転送前に血圧を下げるようにお願いするのを忘れないようにしなければなりません.

コメント

このブログの人気の投稿

NIHSSスコアの基本を再確認。

※付録 NIHSSスコア NIHSSスコアを作ったLyden先生がNIHSSスコアについて書いています。 NIHSSスコアを評価すると、ときどき、 「これ、何点にすべきですか?」 なんて、看護師や、研修医から聞かれて、 「まぁ、1点と2点の間って感じかな?」 と、ぼかしたり、 「思うとおりに評価していいよ。それが、大切だ!」 と、妙に「お前を信頼しているぜ」感を醸し出したりして、 その場を切り抜けていました。 それも、間違いだとは思いませんが、「もっとスッキリしたい」とみんな思っていたのだと思います。 で、このもやもや感を少しでも解消できるかと思って、 Lyden et al. Stroke. 2017;48:513-519 Using the National Institutes of Health Stroke Scale を読んでみましたが、 基本、NIHSSスコアが作られた歴史 的な話ばかりで、 スッキリせず。 期待がずれていたのは、こっちの問題です。 それでも、2つ再確認出来たことがありました。 NIHSSスコアを評価するときのルール すべての項目で、Score what you see, not what you think (診たものを評価する。検者が考えたものではない) すべての項目で、Score the first response, not the best response, except item 9 best language (最初の反応を評価する。ベストの反応ではない。でも、言語の評価はベストの反応で) すべての項目で、Do not coach (コーチしちゃだめ) 項目1aで、May be assessed casually while taking history (会話している間に評価可能でしょう) 項目2で、Only assess horizontal gaze (水平方向の眼球運動のみ評価) 項目5 and 6で、Count out loud and use your fingers to show the patient your count (声を出して数字をカウントし、患者の前で指を折ってカウントすることもす...

3度めの正直。日本神経学会専門医合格。

第40回神経専門医試験に合格しました。 合格をいただきました。 3度めの正直なのです。 第38回☓、第39回☓、で今回。 試験結果が出るまで、 「3度目の正直」:「2度あることは3度ある」=1:5 ぐらいの心境でした。 2回不合格だったことは、少しだけ恥ずかしいですが、仕方ありません。 それが、現実ですし、逆に、得られたことも大きかったです。 神経診察を基本からやり直すと、より深く、それぞれの診察の意味と、的確な総合的診断に結びつくことを理解することが出来ました。 疾患についても勉強しなおしました。 あたり前ののことですが、でもそのあたり前(基本)が重要なんですね。 多くの神経内科医は知っていることなのでしょうけど。 今回も試験当日は20分ずつ2部屋で面接試験がありました。1つ目の部屋では、診察の実技です。 面接官の先生はiPadを見ながら、どれを質問しようか考えていらっしゃいました。 おそらく、神経診察の到達目標みたいなのがあって、そのうちの1つか、2つを受験者にさせているのだと思います。 「右麻痺があって、複視がある人の診察をしてください。あっ、意識障害も有るということで」 横に座っている若いお兄ちゃんを診察させていただくことになります。 いつも(3回目なので)思うのは、この普通の人を、病気の人としてイメージしながら診察することの難しさです。 診察しても、麻痺の症状をしてくれるわけではありません。「ものが二重に見える」と訴えてくれるわけではありません。もちろん、意識清明です。 脳神経の2番から順に診察をしていくと、省くことができず、そのまま脳神経診察終了。 ベッドに寝かせて、運動の診察をして、チラッと試験管をみても、何もおっしゃらないので、そのまま感覚、協調運動の診察。チラっと試験管をみても、何もおっしゃらないので、そのまま腱反射、病的反射の診察。そこで、試験管から一言。 「あのー、意識障害もありましたよね」 「あっ。」 かるく、混乱して、最後まで意識障害の診察をせずに終わってしまいました。 やってしまった~と思いつつも、意識の診察を「わかりますか〜」なんて、質問したところで、 「ま、それはいいので」「意識障害があれば、髄膜刺激徴候も必ず診ますよね」 ...

私、第38回神経内科専門医試験2次試験受けました。

先に言います. いいわけ. 2次試験の前準備なし,は言い過ぎで,あまりできなかった,です. 毎日,患者さんが来てくださって・・・. いいわけ. 場所は都市センターホテル. 2次試験は,診察と面接です. 診察. やさしい先生方でした.うまくできなくてすいませんでしたって感じです. 「いや,責めてるわけじゃないから」 なんて,言わせるような雰囲気だったわけです. ・・・・. 模擬患者さんは若いお兄ちゃん. 「意識障害で来た患者が脳卒中かどうか鑑別してください」 ・・・・.今考えれば,健康そうな兄ちゃんが普通に横たわって,目は開けて,両手は指示通り握って,ただ呼びかけに答えないだけ,というシュールな状況. 普通に急患室でみたら,解離性混迷でしょう. 脳卒中の意識障害なんて,「現場」で見れば簡単です. 意識障害がおこるほど広範な虚血を起こしているか(基本は内頸動脈閉塞,中大脳動脈閉塞の一部),脳底動脈が閉塞して,脳幹がやられている. 見た目でわかる. でも,「”試験”現場」では,緊張して,何がなんだか分からなくなりました. 終了. 「次は,腱反射をとってください.」 上肢の腱反射が出づらくて増強法でやっても,出たり出なかったり. 「意外と,末梢神経障害とかあるのか?いや,模擬患者だからそんなはずはない.いやしかし・・・・」 私の脳内の私の小人たちが,熱い脳内ディスカッションを繰り広げ,議論は紛糾し・・・,結論出ず・・・. 試験前は,後輩に「大丈夫,みんないっしょだから,なんとかなるよ」なんて,緊張を解きほぐしてやった偉そうな私は,向かいのドアから外に出て行ってしまっていました. そんな,病気の人,混じっているわけないですね.今考えると. 今,思い出しながら,かなり恥ずかしい間違いをしたことを思い出しました. あまりに恥ずかしいので,ここに書けません. せめて,このブログでは次の試験部屋に進ませてください. しかし,次の試験部屋でも,いいことありませんでした. お二人の先生方がいらっしゃって,お一人の先生は,先に提出してい...