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静脈血栓症や塞栓症再発に対するアスピリンの効果

試験勉強の合間に,気分転換で論文紹介.

May 24, 2012 The New England Journal of Medicine
Aspirin for preventing the Recurrence of Venous thromboembolism

静脈血栓症およびそれに伴う塞栓症の再発をアスピリンは抑制できるのか?
ということを調べた研究です.

背景:
特に誘因のない(手術とか外傷など)静脈血栓症はワーファリンをやめると,その後2年以内に20%が再発します.
ワーファリン続けてもいいけど,出血のリスクもあるし,毎回採血をしてPT-INRをチェックしないといけないし,煩雑です.
それではアスピリン100mg/dayはどうなんでしょう?

方法:
多施設共同ランダム化二重盲検試験

対象:
誘因なく静脈血栓症ができた18歳以上の患者で,ワーファリン(目標PT-INR 2-3)を6から18か月内服した患者

The primary efficacy outcome:
症候性で,画像で検出できた静脈血栓症再発または肺塞栓.

Secondary efficacy outcome:
非致死性心筋梗塞,不安定狭心症,虚血性脳血管障害,下肢動脈閉塞,いろいろな原因の死亡.

Safety outcome
出血

結果:
The primary efficacy outcome
アスピリン群:28/205人,6.6%/年
プラセボ群」43/197人,11.2%/年
hazard ratio 0.58, 95%信頼区間 0.36-0.93

ひどい出血
アスピリン群,プラセボ群それぞれ1人ずつ.





結論:アスピリンは,誘因ない静脈血栓症患者においてワーファリン中止後の深部静脈血栓症再発を減らす.出血の心配はそんなにない.



私の患者さんで,特に誘因のない深部静脈血栓があった患者さんで,6カ月間ワーファリンを使って,血栓がないことを確認して,シロスタゾールに変更したのですが,その6カ月後に深部静脈血栓症が再発して,結局ワーファリンに戻した,という方がいらっしゃいました.このとき,アスピリンにすればよかったのかもしれないですね.わからないですけど.

血小板は,動脈の血栓形成の時ほどではないものの,静脈血栓形成においてもある一定の役割を果たしています.静脈においても,Virchow's triadが血栓形成に関与するわけです.

したがって,静脈血栓形成予防において,抗血小板薬の意味はあるわけです.

しかし,実際の現場で,ワーファリンを続けるか,アスピリンに変更するか,とても迷います.

私は基本的にワーファリンを続けるようにしています.
ただ出血のリスクが高い人(この判断が難しい)には,アスピリンがいいかもしれません.

今後,新規抗凝固薬が静脈血栓症にも適応が拡大されそうです.

したがって,この領域の話は,これからホットなところではないでしょうか.


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