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妊娠患者にtPA,是か非か.

Stroke 3月号.

Contraversies in Stroke (脳卒中の賛否両論)

37歳女性
2回妊娠,出産0回.

発症90分の脳梗塞.

症状:全失語,右麻痺.NIHSS score 12

左中大脳動脈分枝(M2)閉塞

DWI/PWI mismatchあり.

Q1: tPA静注療法を考慮すべき?

Q2: もしtPA "no"なら,血管内治療すべき?

重要なことは,積極的治療(tPAまたは血管内治療)をしない手はないということ.

Yes, Intravenous Thrombolysis Should Be Administered in Pregnancy When Other Clinical and Imaging Factors Are Favorable.

Demchuck先生

vs

Should Intravenous Thrombolysis be Considered the First Option in Pregnant Women?

Broderick先生

http://stroke.ahajournals.org/content/44/3.toc

tPAには催奇形性は報告されておらず,また分子サイズが大きいので胎盤を通過することはありません.

これまで,妊娠女性に対するtPA静注療法が行われたという報告は,少なくとも8件あります.

1人は子宮出血(minor)がありましたが,神経症候は改善しています.

”tPA, YES”派のDemchuck先生は,

「妊娠」はもちろん,治療決定おいて重要な因子だけど,そのほかの臨床的,画像的な因子も同様に重要である.

と言って,話を進めています.

1 若年は出血リスクが低い.
2 DWI/PWI mismatchありは,予後良好な傾向あり.
3 DWI lesion volume < 18mlは予後がいい.

そもそも,血管内治療がtPA静注療法より優れているランダム化データはないし,いわんやM2病変においてをや.であります.

妊娠中は血管壁の変化がおこっており,血管内治療の器具によって,損傷を起こし,血管が破れるかもしれない.

まずは,tPA静注療法を開始する.そして,そこが,primary stroke centerならば,高次脳卒中病院へ搬送し,血管内カテーテル治療を検討する.NICUの使用も検討する.



”すぐtPAは疑問”派のBroderick先生

血管内治療チームが治療を開始できるなら,血管内治療を選択する.

その心は?

「脳出血のリスクがtPAより低いわけではないのは百も承知だが,何より,子宮出血のリスクを減少させるはず」

だから.

なるほど.

もしtPAを開始したとして,その時間と比べた時に,穿刺までの時間が40~45分の遅れは,再灌流に差がないことが言われています.

「もし,血管内治療チームの登場が30~60分遅れる場合は,tPA静注療法を行う」

と,tPA静注療法施行の可能性に含みを持たせた内容でありました.



当施設では・・・,

やはりケースバイケースとなりますね.

正直に申し上げますと,妊娠女性の脳梗塞患者に対するtPA静注療法なんて,ほとんど考えたことがありませんでした.

お恥ずかしい.

このような患者さんがいつ来るか,わからないので,常に情報,知識をupdateしておかなくてはなりませんね.

知識がない状態で,この例の様な脳梗塞女性を病院に迎えたことを想像したら,背筋がぞわっとなりました.


ちなみに,妊娠中の脳梗塞は過凝固状態が背景にあり,「深部静脈血栓→右左シャント→脳梗塞」の奇異性脳塞栓症が関与しているものが多いかもしれません.そうすると,フィブリンが豊富な血栓がメインであり,tPAは良く効くのかも知れません.


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