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洞調律心不全にはワーファリンかアスピリンか。

洞調律(これ大切)の心不全患者にはワーファリンを使った方がいいのか、それともアスピリンでいいのか。 ということを2002年から2010年の間に2300人ぐらいの患者さんを登録してしらべています。

New England Journal of Medicine May 17, 2012から
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1202299

研究デザイン:多施設共同二重盲検(ワーファリン群は本物ワーファリン+偽物アスピリン,アスピリン群は本物アスピリンと偽物ワーファリン)

11カ国168施設.残念ながら日本は入っていないですね.

対象:18歳以上の洞調律心不全患者(左室収縮率(EF)35 %未満)
非対象患者は,心房細動,機械弁,心内血栓あり,の患者

1次エンドポイント:虚血性脳血管障害,脳内出血,死亡
2次エンドポイント:心筋梗塞,心不全入院

ちなみに,目標PT-INRは2.75 (2.0-3.5).

重度の出血の定義は,脳内出血,硬膜外・下・くも膜下出血,脊髄硬膜内出血,網膜出血,ヘモグロビンが2g/dl下がる出血,輸血2単位以上必要な出血

結果:
だいたいそれぞれの群1100人ずつぐらい.

PT-INR 2.0-3.5を達成できたのは62.6%.2.0を下回っていたのは27.1%,3.5を上回っていたのは10.3%.

1次エンドポイントについては差なし
ワーファリン群:7.47/100人・年
アスピリン群:7.93/100人・年(p=0.40)

でも経過をみていくと4年目ぐらいから,少しワーファリン群の方が良くなってきます.(p=0.046)




虚血性脳血管障害についてみるとワーファリン群がいい
ワーファリン群:0.72/100人・年
アスピリン群:1.36/100人・年(p=0.005)

重度の出血はワーファリン群に多い
ワーファリン群:1.78/100人・年
アスピリン群:0.87/100人・年(p<0.001)

考察:
洞調律の心不全患者において,ワーファリンとアスピリンどちらを使うかであまり虚血性出血性脳卒中,死亡に差はないけど,やはりワーファリンは心臓の動きが悪い患者さんの虚血性脳血管障害を減らし,出血を増やすという結果であった.それぞれの患者でよく考えて使いましょう.

心臓の動きが悪い患者さんは,心臓からの塞栓を起こしやすいのでしょう.

--どのようなタイプの心不全患者さんが登録されたか,その細かいことはわかりませんでした.拡張型なのか,肥大型なのか,はたまた虚血性なのか.

臨床的にはこのタイプで悩みます.肥大型はワーファリンという感じはしないけど,拡張型はワーファリンという感じ.

これが,考察のそれぞれの患者でよく考えて使いましょう,ということでしょう.

--経過中に心房細動が検出された方も含まれていると思います.二重盲検なので,もしアスピリン群だったらそのままアスピリンのままだったのでしょう.

--ワーファリンは頭蓋内出血が多いのですが,意外と差がなく,消化管出血が多かったです.これの意味は? 難しい.

この論文で,洞調律の心不全患者は,出血のリスクを考慮し,心不全のタイプによって,ワーファリンかアスピリンか考えましょう.ということが再確認できました.

ちなみに,筆頭著者は本間俊一先生,コロンピア大学循環器内科教授.
すごいですね.卵円孔開存の研究PICSSもやっていらっしゃいました.

最近のNEJM血栓話が多く,面白いです.



コメント

  1. 肥大型心筋症でも拡張相では心エコー上モヤモヤエコーが見られ、拡張型と変わりない気がします。心不全患者には、大抵利尿剤が併用されており、BUNも上がり傾向で、脱水も関係しているのかも。確かに面白い話題です。

    返信削除
    返信
    1. 確かに肥大型心筋症の拡張相は,拡張型と変わないと私も思います.確かに脱水も関与していそうです.

      ちなみに洞調律の虚血性心疾患を有する脳梗塞患者で,dyskinesis(奇異性壁運動)があれば,全体的な収縮能が保たれていても,ワルファリンを使うべきと考えています.

      コメントありがとうございます.

      削除

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