スキップしてメイン コンテンツに移動

穴があったら塞ぎたくなる。卵円孔開存の話。

これまで、

「穴(卵円孔開存)があるけど、塞ぐ方法は、全身麻酔で心臓をあけることになるから、薬の継続ですね」

ということで、

脳梗塞患者で、かつ、他の明らかな原因 (心房細動や動脈狭窄など) がないとき、

1) 卵円孔開存あり、かつ、静脈血栓なし

ならば、基本的に、抗血小板薬(バイアスピリンなど)

2) 卵円孔開存あり、かつ、静脈血栓あり

ならば、基本的に、抗凝固薬(ワルファリンなど)

でした。

「基本的に」としたのは例外もあるので。

1)の場合で、若年だったり、大きな卵円孔開存だったりしたときに抗凝固薬を使う
2)の場合、再発性ならば、開胸術で卵円孔開存を閉じる

というようなこともあります。

私は、お二人の患者さんで、心臓血管外科にお願いし、開胸による卵円孔開存閉鎖術をしていただきました。

今回は、2017年9月13日のNew England Journal of Medicineで3つの卵円孔開存閉鎖術の効果を検討した論文が掲載されたので読んでみます。

2013年に私が読んだ論文をがあり、その他にもこれまで2つ、卵円孔開存閉鎖術の有効性を検討した論文があります。

卵円孔開存閉鎖の有効性.基本的には”questionable”ですが・・・ 2013.04.03

基本的には

”限定的には有効”

という内容であったと認識しています。

今回の3つの論文は、これまでの論文の弱い点を補ったところがポイントだと思います。

1つは、「経過観察をより長期間にした」ということ。

もう1つは、Mas先生の論文のように、リスクが高いことが予想される「大きな卵円孔開存や心房中隔瘤の患者のみを登録した」ということ。


Mas et al. Patent Foramen Ovale Closure or Anticoagulation vs. Antiplatelets after Stroke NEJM 2017
Mas先生が主著
フランス32施設。ドイツ2施設。

対象は
脳硬塞があり、

かつ「大きな卵円孔開存」、もしくは「卵円孔開存+心房中隔瘤」のある患者を登録。
これがポイントです。
※大きな卵円孔開存:バルサルバ負荷解除後、3心拍内で、左房内にbubbleが30個以上みられる。
※心房中隔瘤:心房中隔の振幅が10mm以上

経過観察中央値5.3年
全登録患者数 663名

この研究は3のランダムグループにわけているのが少しtrickyですが、臨床に即したものではあります。

ランダムグループ1
1:1:1 (524名)
卵円孔開存閉鎖+血小板療法 173名
vs. 抗血小板療法 171名
vs. 抗凝固療法 (INR 2-3) 180名

ランダムグループ2
抗凝固療法禁忌患者(129名)は、
卵円孔開存閉鎖+抗血小板療法 65名
vs. 抗血小板療法 64名

ランダムグループ3
卵円孔開存閉鎖術禁忌患者 (10名)
抗血小板療法 3名
vs. 抗凝固療法 7名

ランダムグループ1 and 3
脳硬塞発症
卵円孔開存閉鎖+抗血小板療法 0/238名 vs 抗血小板療法 14/245
ハザード比 0.03、p<0.01


デバイス関連合併症 5.9%
心房細動発生率 4.6 vs 0.9%

深刻な合併症は差なし。


ランダムグループ 1 and 3
脳梗塞発症
抗凝固グループ 3/183名
抗血小板グループ7/174名
p=0.44

Saver et al. Long-Term Outcomes of Patent Foramen Ovale Closure or Medical Therapy after Stroke NEJM 2017
Saver先生が主著者の論文は、主にアメリカで行われています。
2013年に私が読んだ論文の長期経過観察の結果です。

Amplatzer PFO occluderを使用。これ、FDAで保険適応デバイス。

総患者数980名
経過観察中央値 5.9年

卵円孔開存閉鎖術群 vs. 抗血小板薬療法群
(術後抗血小板療法1ヶ月はアスピリン+クロピドグレル、5カ月はアスピリン単剤。その後は各医師におまかせ)

「抗血栓薬のみで治療群」のdrop outが多かったのがマイナス要素です。

ITT解析
卵円孔開存閉鎖術 vs. 抗血小板療法群
脳硬塞再発
18/499 (3.6%)
event rate per 100 patients-Yr: 0.58
vs.
28/481 (5.8%)
event rate per 100 patients-Yr: 1.07

やはり、この図のように、

substantial (大きな)(=20個以上のbubble出現)
だったり、atrial septal aneurysm (心房中隔瘤)があるほうが
卵円孔開存閉鎖術の恩恵を受けやすいのかもしれません。

Sondergaard et al. Patent Foramen Ovale Closure or Antiplatelet Therapy for Cryptogenic Stroke NEJM 2017
Sondergaard先生の論文はカナダ、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、イギリス、アメリカの施設から登録されています。

登録患者664名

卵円孔開存閉鎖術 vs 抗血小板薬
2:1登録
観察期間平均3.2年

2年間の経過で脳硬塞発症
 6/441 (1.4%) vs 12/223 (5.4%); p<0.002

無症候性脳梗塞の発生頻度は差なし。

深刻な合併症23.1 vs 27.8

デバイス関連合併症 1.4%
心房細動 6.6%

-----------------------------------------------------------------------------------------
私が思うに、
18-60歳の脳梗塞患者 + 大きな卵円孔開存 or 心房中隔瘤を合併した卵円孔開存
→塞いでいい。かな。

Mas先生の論文は大きな卵円孔開存、心房中隔瘤患者に焦点をあて、「勝ちに行った」検討です。
Saver先生の論文もSondergaard先生の論文も、大きな卵円孔開存が50%弱登録されていました。

ただし、心房細動発生はもっと減ってほしいです。
5%の発生率はそう低いとは思えない。
ついでにアブレーション? いやいや、やり過ぎ???

日本ではどうなるの???

Amplatzer PFO occluder(Saver先生の論文。アメリカ勢が使用したデバイス)のほかに
GORE HELEX とCARDIOFORM Septal Occluders (ヨーロッパ勢が使用したデバイス)
もあり、商業的な争いもありそうです。


Editorialで

The evidence for causation of embolic stroke in any given person is, of course, circumstantial (e.g., atrial fibrillation or carotid stenosis),
and
"it seems reasonable that the presence of a PFO and a sizable interatrial shunt should similarly no longer result in the categorization of a stroke as cryptogenic."
とくに大きな卵円孔開存があれば、もはやCryptogenic と言うべきでないのかもしれません。


コメント

このブログの人気の投稿

NIHSSスコアの基本を再確認。

※付録 NIHSSスコア NIHSSスコアを作ったLyden先生がNIHSSスコアについて書いています。 NIHSSスコアを評価すると、ときどき、 「これ、何点にすべきですか?」 なんて、看護師や、研修医から聞かれて、 「まぁ、1点と2点の間って感じかな?」 と、ぼかしたり、 「思うとおりに評価していいよ。それが、大切だ!」 と、妙に「お前を信頼しているぜ」感を醸し出したりして、 その場を切り抜けていました。 それも、間違いだとは思いませんが、「もっとスッキリしたい」とみんな思っていたのだと思います。 で、このもやもや感を少しでも解消できるかと思って、 Lyden et al. Stroke. 2017;48:513-519 Using the National Institutes of Health Stroke Scale を読んでみましたが、 基本、NIHSSスコアが作られた歴史 的な話ばかりで、 スッキリせず。 期待がずれていたのは、こっちの問題です。 それでも、2つ再確認出来たことがありました。 NIHSSスコアを評価するときのルール すべての項目で、Score what you see, not what you think (診たものを評価する。検者が考えたものではない) すべての項目で、Score the first response, not the best response, except item 9 best language (最初の反応を評価する。ベストの反応ではない。でも、言語の評価はベストの反応で) すべての項目で、Do not coach (コーチしちゃだめ) 項目1aで、May be assessed casually while taking history (会話している間に評価可能でしょう) 項目2で、Only assess horizontal gaze (水平方向の眼球運動のみ評価) 項目5 and 6で、Count out loud and use your fingers to show the patient your count (声を出して数字をカウントし、患者の前で指を折ってカウントすることもす...

3度めの正直。日本神経学会専門医合格。

第40回神経専門医試験に合格しました。 合格をいただきました。 3度めの正直なのです。 第38回☓、第39回☓、で今回。 試験結果が出るまで、 「3度目の正直」:「2度あることは3度ある」=1:5 ぐらいの心境でした。 2回不合格だったことは、少しだけ恥ずかしいですが、仕方ありません。 それが、現実ですし、逆に、得られたことも大きかったです。 神経診察を基本からやり直すと、より深く、それぞれの診察の意味と、的確な総合的診断に結びつくことを理解することが出来ました。 疾患についても勉強しなおしました。 あたり前ののことですが、でもそのあたり前(基本)が重要なんですね。 多くの神経内科医は知っていることなのでしょうけど。 今回も試験当日は20分ずつ2部屋で面接試験がありました。1つ目の部屋では、診察の実技です。 面接官の先生はiPadを見ながら、どれを質問しようか考えていらっしゃいました。 おそらく、神経診察の到達目標みたいなのがあって、そのうちの1つか、2つを受験者にさせているのだと思います。 「右麻痺があって、複視がある人の診察をしてください。あっ、意識障害も有るということで」 横に座っている若いお兄ちゃんを診察させていただくことになります。 いつも(3回目なので)思うのは、この普通の人を、病気の人としてイメージしながら診察することの難しさです。 診察しても、麻痺の症状をしてくれるわけではありません。「ものが二重に見える」と訴えてくれるわけではありません。もちろん、意識清明です。 脳神経の2番から順に診察をしていくと、省くことができず、そのまま脳神経診察終了。 ベッドに寝かせて、運動の診察をして、チラッと試験管をみても、何もおっしゃらないので、そのまま感覚、協調運動の診察。チラっと試験管をみても、何もおっしゃらないので、そのまま腱反射、病的反射の診察。そこで、試験管から一言。 「あのー、意識障害もありましたよね」 「あっ。」 かるく、混乱して、最後まで意識障害の診察をせずに終わってしまいました。 やってしまった~と思いつつも、意識の診察を「わかりますか〜」なんて、質問したところで、 「ま、それはいいので」「意識障害があれば、髄膜刺激徴候も必ず診ますよね」 ...

私、第38回神経内科専門医試験2次試験受けました。

先に言います. いいわけ. 2次試験の前準備なし,は言い過ぎで,あまりできなかった,です. 毎日,患者さんが来てくださって・・・. いいわけ. 場所は都市センターホテル. 2次試験は,診察と面接です. 診察. やさしい先生方でした.うまくできなくてすいませんでしたって感じです. 「いや,責めてるわけじゃないから」 なんて,言わせるような雰囲気だったわけです. ・・・・. 模擬患者さんは若いお兄ちゃん. 「意識障害で来た患者が脳卒中かどうか鑑別してください」 ・・・・.今考えれば,健康そうな兄ちゃんが普通に横たわって,目は開けて,両手は指示通り握って,ただ呼びかけに答えないだけ,というシュールな状況. 普通に急患室でみたら,解離性混迷でしょう. 脳卒中の意識障害なんて,「現場」で見れば簡単です. 意識障害がおこるほど広範な虚血を起こしているか(基本は内頸動脈閉塞,中大脳動脈閉塞の一部),脳底動脈が閉塞して,脳幹がやられている. 見た目でわかる. でも,「”試験”現場」では,緊張して,何がなんだか分からなくなりました. 終了. 「次は,腱反射をとってください.」 上肢の腱反射が出づらくて増強法でやっても,出たり出なかったり. 「意外と,末梢神経障害とかあるのか?いや,模擬患者だからそんなはずはない.いやしかし・・・・」 私の脳内の私の小人たちが,熱い脳内ディスカッションを繰り広げ,議論は紛糾し・・・,結論出ず・・・. 試験前は,後輩に「大丈夫,みんないっしょだから,なんとかなるよ」なんて,緊張を解きほぐしてやった偉そうな私は,向かいのドアから外に出て行ってしまっていました. そんな,病気の人,混じっているわけないですね.今考えると. 今,思い出しながら,かなり恥ずかしい間違いをしたことを思い出しました. あまりに恥ずかしいので,ここに書けません. せめて,このブログでは次の試験部屋に進ませてください. しかし,次の試験部屋でも,いいことありませんでした. お二人の先生方がいらっしゃって,お一人の先生は,先に提出してい...